SPECIAL INTERVIEW (2023.04)

ヒップホップシーンから誕生した異端児であり革命児、Novel Core。2024年1月17日、Novel Coreにとって22歳最後の日に、日本武道館にてワンマンライブを開催することが決定した。

2020年10月、メジャーデビュー。当時から彼は「デビューから3年以内に武道館をやる」と公言していた。デビューから2年3か月経った2023年1月21日、Novel Coreの活動史において節目であり伝説にもなるのであろうワンマンライブを開催した日に、武道館公演を発表。「日本武道館」――その場所の意義について、Novel Coreはこう語る。

「日本武道館は、自分にとって特別な場所。BAD HOPが国内ヒップホップアーティストとして史上最年少で日本武道館に到達した日(2018年11月)のライブを睨みつけるように見ていたんですよね。なんかね、涙が出たんですよ。日本の音楽業界が動いていることを感じたというか。若いアーティストが力をつけてシーンの先頭に立っている感じが、希望しかなかった。BAD HOPの武道館は本当に革命的だったし、自分も最速レベルでそこに到達したいという想いがありました」

Novel Coreの武道館への憧れを語る上で、もう一人の人物についても欠かせない。BAD HOPの公演より1年半前の2017年5月、Novel Coreが16歳の時に開催された、彼にとって「ヒーロー」の武道館2デイズ公演だ。

「SKY-HIの『“WELIVE” in BUDOKAN』。直接会場には行けていないんですけど、あの映像を見たことが自分にとって大きな引き金となりました。『この人が僕にとってのヒーローだ』と明確に認識したのがあの武道館公演。音楽をやっていく上で背負い続けてきたネガティブな気持ちを、ステージ上で人を魅了する最高のエンターテイメントに昇華できるということをまざまざと見せられた瞬間でした。日高さんが“カミツレベルベット”を歌ってる時、お客さんの声を聞きながらマジで震えてたし、目も潤んでたし、超笑顔でめちゃくちゃキラキラしていて。音楽家としても、人間としても、すっごく幸せそうだったんですね。あれを見た時に、『日本武道館に立ちたい』と明確に思ったし、『自分が武道館に立つ時はこうじゃなきゃいけない』とも思いました。ただ商業的な成功だけで武道館をやるのではなくて、人間として幸せだと思えないと意味がないなって」

Novel Coreが『BAZOOKA!!! 第12回高校生RAP選手権』にて優勝を果たしたのも2017年のこと。その後2018年にZeebra主宰のヒップホップレーベル「GRAND MASTER」よりインディーズデビュー。ヒップホップにルーツを深く根差しながらも、幼少の頃からクラシック、ロック、ポップスなど様々な音楽を吸収し、それらを混ぜ合わせたミクスチャー・ミュージックにいち早く取り組み、既存のジャンルの概念には収まらない楽曲制作やひとつの肩書きでは語れない活動を重ねてきた。その姿勢がSKY-HIと共鳴し、2020年、SKY-HI主宰「BMSG」の第一弾アーティストとしてメジャーデビューが決定。

しかし、メジャーデビューのチャンスを掴んだ矢先に未曾有の事態が襲ってくる。新型コロナウイルスの影響で、思うようにライブ活動ができない時期はあまりにも長かった。武道館公演を成功させるためには、当然集客力も必要だが、あの伝統あるステージの上でいいショーを作り上げられるパフォーマンス力こそ欠かせない。10代の頃からラップバトルやストリートで場数を踏んできたとはいえ、それらで鍛えたものとは異なるスキルも必要であることは本人が一番よくわかっている。

「最初のまとまった作品が出たタイミングがコロナ禍どんかぶりだったので、お客さんを入れてライブをやる感覚がなくて。それまでお客さんが入ってるライブの経験ってクラブとかでしたし。BE:FIRSTがまだ『THE FIRST』のオーディションをやってる頃に表参道あたりでライブをやったんですけど、その時はお客さんが15人とか。だから武道館を埋める画はまだ全く見えてなかったです。でもデビューから3年というタイミングでやる意義を感じていたので、スタッフのみなさんと一緒に武道館を成功させる画をひたすら想像しながら、超緻密に計画を組んで、一個一個忠実に再現しながら進んできました。このあいだ久々に、2022年1月に川崎CLUB CITTA’でやったバースデーライブ(『”A GREAT FOOL”BIRTHDAY LIVE』)の映像を見直したんですけど、歌もラップもステージングも今と比べたら天と地ほどの差で(笑)」

結果的に、2022年はチームが計画していた以上の動きを作ることができた。2022年4〜5月には初の全国ツアー『A GREAT FOOL TOUR 2022』を成功させ、6月にはバンドを引き連れた新体制で『Novel Core 1st ONEMAN LIVE -I AM THE TROUBLE- at KT Zepp Yokohama』を開催、Zepp2公演を即完。11〜12月にはさらに規模を拡大し、Zepp Namba、Zepp Fukuokaを含む全国ツアー『No Pressure TOUR 2022』を開催。2023年1月の『Novel Core ONEMAN LIVE -Untitled- at 豊洲PIT』にはキャパシティを大きく上回るほどの応募が殺到。ウィズコロナ時代に成人を迎えた世代と問題が山積みな時代を牽引するのはNovel Coreであると示唆するような内容で、演奏も脚本も映像演出もダンスも緻密に練られた総合エンターテイメントステージを作り上げた。

「2022年は怒涛の1年だった」と自身でも振り返るが、なぜここまで異例のスピードでライブの求心力を高めることができたのか。本人は「全力投球でした。でもまだ足りないなって思う。それは近くにいる人たちがそれ以上のスピードで伸びまくってるから」とBMSGの仲間たちを称えて語る。Novel Coreは自分自身の理想を高く持ち、その理想にいち早く届くよう歌・ラップ・ステージング・ダンスなどのスキル向上に惜しみない探究心を注ぎながら、あらゆるジャンルを調合したサウンドメイクや古今東西のライブを吸収したパフォーマンスで多くの人を振り向かせ、さらに「自分の人生そのもの」という最もオリジナリティのある要素を音楽に昇華することで自分とリスナーの人生を深いところで交差させている。

「ライブで何を大事にするかとか、ファンのみんなに対して何をサプライするかとか、この1年で結構変わりました。ライブをやるたびに意識がすごく成長していってます。でも一番は、身近に感じてもらうことを意識しているかもしれないです。『同じ人間だよ』という感覚。SNSの距離感ではなく、生で音楽を浴びてもらう瞬間にどれだけ近くに感じてもらうかが大事だなと。お客さんが3000人いたら『1対3000』ではなくて『1対1を3000回』と意識してほしいというのは、デビュー当初から日高さんに言われていたことで。ヒップホップはマイノリティが自分たちで自分たちの居場所を作ってきたカルチャーだと思っているので、その精神性を自分の音楽やパフォーマンスに落とし込んで、ヒップホップの層以外の人たちにも感じてもらうことが自分にとっての責務だと思っています」

Novel Coreは、ヒップホップや日本の音楽に対する強い愛がルーツにあるからこそ、文化を更新することに対しても意識的だ。ZeebraやSKY-HIなどシーンの先人たちから受け取っているものの大きさを痛感し、次の世代へとつなぐ責任も自ら背負っている。過去へのリスペクトと知識。今という時代の感覚。そして未来への目線――それらすべてを備えているのが「Novel Core」という表現者である。

「日本武道館のテーマはそこですね。時代は巡るから、誰かからもらった目標をクリアして、次の人に目標を渡す。そのサイクルでカルチャーは回っていると思う。Zeebraさん、KAMINARI-KAZOKU.、NITRO MICROPHONE UNDERGROUNDとか、その世代の人たちにすごくお世話になって、昔からのシーンを勉強させてもらった上で今ここに立てているので。黎明期を支えた人たちが作ってくれた土台を、自分たちの世代で再構築・再解釈して新しいものを作って、次の世代に渡す。それこそが先人たちへの敬意だという感覚が強いです。それにやっぱり僕は日本の音楽も好きで強い影響を受けてきたので、『日本の音楽すごい』と世界の人たちに思ってもらいたい。その魅力を自分のフィルターを通してもっと広げていけたらなと思います」

人を傷つけるよりも、人を救う音楽を。他者を斬るよりも、他者と手を取り合う人生を。不幸に縛られるよりも、希望を追いかける生き方を。そうした心で、Novel Coreはたくさんの異端児やマイノリティたちを招き入れてきた。そして、「マイノリティ」とされた存在が「当たり前」や「スター」となるように、1枚ずつカードをひっくり返している。1月18日にリリースしたEP『iCoN』では、「異端児」が「アイコン=象徴」になっていく様を表現。そしてここから武道館公演までの動きも、武道館公演以降についても、Novel Coreの脳内にはすでに様々な計画が描かれているようだ。

「『A GREAT FOOL』=『根拠なき可能を掲げる大バカ者』が生まれた日が2022年1月のバースデーライブ『”A GREAT FOOL”BIRTHDAY LIVE』であり、ツアー『A GREAT FOOL TOUR 2022』。そこで味方を増やして、これでいいんだという自信をつけた。そのあと6月にやったZeppワンマン『I AM THE TROUBLE』では、同じような気持ちを持っているマイノリティを巻き込んで渦にしてしまおうと、エネルギーが外へ向いた。そこから『トラブル』『エラー』とされている自分たちを、この時代の象徴と呼べるくらいに自信を持って肥大化したものが『iCoN』。さあ、次はなんだ?っていう(笑)。僕の今の見立てでは、メインコンセプトが大きく変わるので、22歳と23歳のNovel Coreは明確に違うと思いますね。今年はNovel CoreとチームCoreにとって武道館をゴールにしないための準備をする1年にもなると思います」

テキスト・インタビュー=矢島由佳子